相続の基礎

相続とは

 相続とは、人の死亡によって、その権利義務が、法律上、当然に、包括的に、相続人に承継されることをいいます。 「当然に、包括的に、相続人に承継される」とは、被相続人がどこで死亡し、相続財産がどこにあるかを、知っていても、知らなくても、そのこととは無関係に相続が開始されることを意味しています。

 この理由は、死者の財産について一瞬であったとしても、無主の状態をつくらないために、相続人が被相続人の死亡の事実をいつ知ったか、戸籍上の死亡届をいつ出したか等にかかわらず相続を開始させることとしたためです。 なお、相続については、被相続人の死亡の時の法律が適用されることとなっており、被相続人の死亡時の規定を参照する必要があります。

相続財産

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではありません。〔民法第896条〕

 相続財産には、土地や建物などの不動産、現金・預貯金、株式等のプラス財産だけでなく、借入金や保証債務等のマイナス財産も含まれています。被相続人の一身に専属したもの(一身専属権)や祭祀財産は相続財産とはなりません。一身専属権には扶養請求権、婚姻費用分担請求権、生活保護受給権などがあります。祭祀財産には、祭祀を営むための系譜、祭具(仏壇・位牌)、墳墓(墓地・墓石)などがあります。〔民法第897条〕

 なお、死亡保険金や死亡退職金は、相続税法上「みなし相続財産」として課税対象となります。

相続の開始時期・場所

 相続開始の時期は、相続開始の原因が発生した時、すなわち被相続人が現実に死亡した瞬間です。〔民法第882条〕

 被相続人の死亡と同時に、当然かつ瞬間的に相続が開始し、相続人がこれを知っていたか否かを問いません。 被相続人の死亡した当時に相続人のあることが不明で、後になって明らかになった場合も同様です。


(1)相続開始の具体的時期

①自然的死亡の場合

 基本的には、現実に死亡の事実が発生した時です。その時期は戸籍簿に記載された死亡の年月日時分であると推定されます。なぜなら戸籍簿への記載は、医師が作成する死亡診断書または死体検案書もしくはこれらに代わる死亡の事実を証すべき書面の記載に基づいてなされるからです。 水難、火災その他の事変によって死亡した場合には、死体が確認できなくても、取り調べに当たった官公署が死亡を認定することができ〔戸籍法第89条〕、これを通称「認定死亡」といいます。

②擬制死亡の場合

 失踪宣告がされると、失踪者は普通失踪の場合7年の失踪期間が満了した時、特別失踪(「危難失踪」ともいう)の場合には、その危難が去った時に死亡したものとみなされます。〔民法第31条〕これは「みなし規定」であるので、宣告が取り消されない限り、たとえ生きていたとしても死亡したものとして取り扱われます。


(3)相続開始の場所

 相続は、被相続人の住所において開始します。〔民法第883条〕相続に関する訴え等の管轄権は、相続開始の時における被相続人の住所により定まります。〔民事訴訟法第5条第14号〕


(4)同時死亡の推定

 相続人は、相続開始の時に、生存していなければなりません。(同時存在の原則)ただし、胎児については生まれたものとみなすという特例規定があります。〔民法第886条〕

 この原則によると、数人の者が同時に死亡したとの推定を受ける場合〔民法第33条の2〕、これらの者の間では、一方の死亡時に他方は生存していなかったことになります。したがって、その相互間では相続は開始しません。ただし、代襲相続は、被相続人と被代襲者の同時死亡の場合にも開始します。〔民法第887条第2項〕

相続人

 相続人とは、相続によって被相続人の財産法上の権利・義務を承継する者です。

 相続人は、相続開始の時から被相続人の財産を承継する者であり、民法上自然人=人(相続人)の権利能力は出生に始まります。〔民法第3条第1項〕そのため、相続開始の時に相続人たる者が生存していることが必要です(同時存在の原則)。 例外として、胎児は相続については、既に生まれたものとみなす〔民法第886条第1項〕とされ、相続に関しては胎児に権利能力を認めました。相続開始時に既に懐胎されている者を、相続人から除外するのは公平を欠くからです。

相続人の種類・順位

 血族の相続人については、子・直系尊属・兄弟姉妹の順位を定め、同順位の者が複数いれば共同で相続人となることとし、原則として平等の割合の相続分を与えています。配偶者は、常に血族の相続人と並んで第1順位の相続人となります。これらの者がなければ、配偶者が単独で相続人になります。


(1)血族の相続人

①第1順位

・ 被相続人の子〔民法第887条第1項〕またはその代襲者〔同条第2項及び第3項〕

 実子と養子とを区別せず嫡出子・非嫡出子とも区別しません。子が数人いれば、共同で相続人になります。

②第2順位

・被相続人の直系尊属〔民法第889条1項〕

 実父母であると養父母であるとを問いません。親等の異なった者の間ではその近い者を先にします。

③第3順位

・兄弟姉妹〔民法第889条1項〕またはその代襲者〔同条第2項〕

 兄弟姉妹が数人いる場合には、同順位で共同相続人となります。


※代襲相続とは、

 被相続人の子・兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したとき、または相続欠格・廃除によって相続権を失ったときに、子・兄弟姉妹の相続分をその者の子が相続することを言います。なお、相続放棄は代襲原因とはなりません。子については、再代襲相続がありますが、兄弟姉妹には再代襲相続はありません。


※相続欠格・廃除

・相続欠格

 相続について不正な利益を得ようとして不法な行為をなし、または、しようとした者に相続させることは、認容できないところです。そこで相続法でも、これらの者から相続権を剥奪するという制裁を負わせています。相続欠格事由は、民法第891条に定められています。

・廃除

 家庭裁判所が被相続人または遺言執行者の請求に基づき、遺留分を有する推定相続人の法定の非行を原因として、その者の相続権を奪うのが廃除の制度です。遺留分を有する推定相続人に限られるのは、遺留分を有しない推定相続人(兄弟姉妹)については、他の者への全財産の贈与や相続分なしと指定することにより目的を達することができるためです。


(2)相続人の不存在

 相続人の不存在とは、相続が開始したが、相続人がいるのか否か明らかでない状態をいいます。相続人となりうる者がいなければ相続人がいないことになります。しかし、戸籍上このような者がいないとしても、絶対に相続人がいないとは断言できない場合も考えられます。例えば、戸籍上は他人の子になっていても、実際は被相続人の子であるということも事実としてあります。相続人の不存在の場合、相続財産は相続財産法人となります。〔民法951条〕相続財産の管理人を選任して管理、清算させます。

 なお、相続人がいることは事実だがその所在が不明であったりする場合は、不在者の財産管理の問題で、相続人の不存在にはあたりません。 

 相続人の捜索手続をしても相続人が出てこないときは、原則として相続財産は国庫に帰属することになります。〔民法第959条〕ただし、被相続人と特別の縁故があった者の請求がある場合には、家庭裁判所は、これらの者に相続財産の全部又は一部を与えることができます。〔民法958条の3〕これを特別縁故者に対する相続財産分与といいます。

相続分

相続の承認・放棄

遺産分割